髙瀨 実穂子 Takase Mihoko
Statement
現代の膨大な情報の中で時折、漠然とした不安感や違和感を持つときがある。文明社会で生きている私たちは、いつでも人と繋がっていられるようになった。しかし逆を言えば、人と関わっていない時間が極端に少なくなっている。SNSやニュース、動画なども人同士をつなげるツールとなり、家に1人でもだれかと関わりを持っている。人と関わるということは、相手の考えや思いを少なからず受け取るだろう。しかし現状、ネットなどで拾う言葉の情報は、批判や偏った考え方による情報が多い。偏った情報が流れている現状に不安や違和感は日々募っていく。そして自分の考え方や思いは意識していなければ、日々希薄になっていく。そんな社会から逃げ出したいと思った。
私はそのような日常から目を逸らし、違和感や不安感を隠すように菌類や植物を巨大化させ、異常に繁殖させた架空の世界を描いている。日常から目を逸らした結果が、このような世界なのは、幼い頃からプレイしていたRPGの影響だろう。
私が描いている世界は、人があまり存在しない。それは人という生物が持っている情報量が多く、人を一人入れるだけで「人」から読み取れる情報で世界観が変化してしまうからだ。人の持つ感情一つで世界は変化する。誰かの感情ではなく一個人の考えで作品を見てほしいと思う。そのため、作品には感情を連想させるようなものはあまり入れないようにしている。感情の代わりに物語を自分の中で作り、物語を描くように制作をしている。その物語を自由に受け取って欲しい。
菌類や植物は、人間や動物のように知性を持って動いていない。いつの間にか存在して繁殖し、時にはアスファルトを突き破り地面から出てくる。迷惑などは考えない。ただ自分の生きるままに生きている。ただ生きて、枯れて、また芽吹く。この一連のサイクルで世界を回している菌類や植物を見ていると、とても羨ましくも恐ろしく思える。しかし私はその生き方に惹かれる。そして、それらの様な自由で静かな、力強く希望のある作品を描きたいと思う。